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筑波研究部

主な研究課題

(1)薬用植物の栽培に関する研究


(2)薬用植物の組織培養に関する研究


(3)外国産未利用植物資源の開発に関する研究

(栽培研究室)

外国産未利用植物資源の開発に関する研究

1.世界の薬用植物資源について

 植物は極寒の地域などごく一部を除けば地球上のいたるところに見られ、その分布種の数は膨大で約30万種と考えられている。その約1割の約3万種の植物が薬用として利用可能と推定されており、多くの国々が重要な治療薬として現在も利用している。その一方、欧米諸国は合成薬の開発に力を入れてきたが、近年、創薬のシーズを天然薬物から求める姿勢を復活させ、一部の世界的企業が大規模な資源獲得戦略を実施している。自然環境の破壊は地球規模で急速に進行しており、そのため、資源保有国は固有の植物種を保護する生物多様性条約を締結し自然環境を守る機運が全世界的に強まっている。しかし米国などのように先進国には条約を締結しない国もある。そのような状況下、貴重な植物生態を保護しながら早急に国内に未開発天然資源を導入し開発を急ぐことが急務である。
 南米は植物の宝庫であり、特にアマゾン川流域は多くの植物が生育しており、全世界の約16%の植物があると言われていて、単純にその1割が薬用植物だとすると、約5、000種の薬用植物があると推定される。現地のシャーマンなどの薬草を用いて治療にあたる者達は情報を隔離することもあり、かなりの薬用植物が世に知られないまま存在していると考えられている。したがってその多くは成分や薬効などの科学的な検証が行われておらず、そのため先進国の大手製薬企業などからその豊富な植物資源に注目が集まっている。このような豊富な植物資源を持つ国は南米以外にも熱帯地域に多い。
 ゲノム創薬などの新しい創薬手法が導入されつつある現代でも、創薬資源として植物は魅力的でありかつ重要である。植物成分の化学構造は人知を超えた多様性があり、人工的に合成が困難な構造を持つものが多い。また、歴史的にみても、かつての熱帯感染症のマラリアの特効薬であるキニーネは南米アンデス山中のキナノキから見いだされた化合物であり、アルテミシニンも植物から見いだされた特効薬である。20世紀には植物成分をリード化合物とした医薬品も数多く開発され、今後も未解明の植物成分中から現在治療が難しい疾病などに対する特効薬が見つかる可能性もある。


2.外国産植物資源から熱帯感染症治療薬の探索について

 栽培研究室ではこのような魅力的な外国産の未利用のものを含む豊富な植物資源に着目し、近年、熱帯感染症のひとつであるリーシュマニア症に対する有効な薬を本感染症の分布する熱帯地域の植物資源から見いだすべく現地研究者と連携して研究を行っている。ここにその研究の一端を紹介する。

○リーシュマニア症治療薬の探索研究について

概 要

 リーシュマニア症は熱帯地方特有の感染症で、WHO 指定の六大熱帯病の一つであり、原虫の種類によって内臓型、皮膚型、粘膜皮膚型の病態を呈する。アフリカ、中近東、中南米、アジアの総患者数およそ1200万人、毎年40万人が新たに感染すると推定されている。現在アンチモン剤(薬剤名:ペントスタム、グルカンタイム)やアンフォテリシンB、ペンタミジンが治療薬として用いられているが効果が弱く、重篤な副作用を呈することもあるため、新たな安価で副作用の少ない薬剤が求められている。南米ペルーでは、アンデス山中で主に顔に潰瘍が発生する皮膚型(現地名:ウタ)が流行しており社会問題となっている。また、近年パキスタンでも本感染症の流行の兆しがある。この感染症に対する薬剤は高価でありかつ長期間の投与の必要性があり通院治療が必要なことから、医療過疎で経済性の低い現地の人々は治療を受けられずに大きな問題となっている。例としてあげた両国など同感染症の流行国から、現地の身近な植物からこの感染症に対して有効な薬剤を見つけて欲しいとの強い要望を受けたことから本研究が開始された。原虫に対する植物成分の活性は、マラリアの特効薬であるキニーネやアルテミシニンに見られるように衆知である。ペルーの現地医師との会談において、南米では薬剤不足や僻地での通院治療の困難さ等の問題点が指摘されており、本研究では綿密な現地での聞き取り調査を基に、現地の植物研究者を交えて感染症に有効な薬用植物を見いだし、それらのリード化合物を基にし、未だに不明な点が多い発症のメカニズム解明や、生体機能の防御力との関連性を解明することにより発病阻止の方策を探っている。
リーシュマニア症 薬草マーケット
左:アンデス型皮膚リーシュマニア症(現地名ウタ),右:ペルー,アンデスの薬草マーケット
 この研究の特色は、薬剤が入手できず治療も受けられない僻地の患者が多い実情から低コストでの開発を考え、感染症の分布地域の植物資源を基に開発することを念頭に置いて行っていることである。この研究により、発展途上国において深刻な問題となっている感染症治療に対する特効薬が現地天然資源より開発され、国際貢献につながることが期待されるとともに、アフリカ、中近東、中南米、アジアの総患者数およそ1200万人、新たに感染する毎年40万人の人々の健康を守り、同地域の活力を高められると考えられる。

現在までの成果

現在までに、南米のペルー、ボリビア、アジアではミャンマー、ネパール、パキスタンなどの国々の生薬を600種類以上をin vitroにおけるスクリーニングにかけ、特に抗リーシュマニア活性の強かった生薬類について、活性成分の検索を行った。ペルー産薬用植物からは Lingua de vaca (Elephantopus mollis H。B。K。) から7種類のセスキテルペノイドを単離し、それらのLeishmania majorに対するIC50値は0。1μg/ml以下と高い活性を示した。また、それらをリード化合物とした誘導体を数種類合成し、活性を検討し多くの有用な知見が得られた。マウスを用いた血中濃度のモニタリングや小核試験なども行い、その結果植物エキス製剤としての利用の可能性が考えられるに至った(国内特許取得済み)。 Yanali (Bocconia paercei Hutch。) からは強い活性を有するベンズフェナンスリジン型アルカロイドを単離した。そのうちチェレリスリンはIC50値0。001μg/ml以下と極めて強い活性を示した(特許出願済み)。またエキスの病態動物への投与を試みた。 Batata de Purga (Ipomoea operculina (Gomes) Mart。) にも強い活性を認め、活性化合物の構造を検討した結果、活性本体は分子量 7000 を越える高分子化合物であると推定された。このような高分子化合物で活性を確認したのは初めての例であり薬効メカニズムに興味が持たれる。ミャンマー産薬用植物としてSemecarpus anacardium L。(下写真)から長鎖を有するフェノール性化合物、Milettia pendula Benth。からプテロカルパン型化合物を活性成分として単離し、またミャンマーにおいては基幹産業となっている木材に関して、その抽出成分の有効性も検討した。その結果、多くのミャンマー材抽出物の有効性を発見しいずれも特許を出願した。ミャンマー産木材は、主に建築用材などとして利用されているが、薬用としての利用法を開拓して行く。海外の共同研究者は、主に植物採取の諸手続きを行い国内研究者の試料採取の案内を担っている。国外植物を試料として用いる場合、種の同定が重要だが現地の専門家の協力とニューヨーク州立植物園、英国キュー植物園の調査などにより正確な同定が行われている。

Chyi Thee 左:ミャンマー生薬Semecarpus anacardium(ウルシ科)
現地名はChyi Thee
現地では、感染症、乾癬、痔疾、消化不良などに服用している。
右:Perezia pinnatifida Wedd.(キク科)
現地名はValeriana
Valeriana
(4)薬用植物の品質評価に関する研究

(5)薬用植物の基原種解明に関する研究





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薬用植物資源研究センター

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