外国産未利用植物資源の開発に関する研究
1.世界の薬用植物資源について○リーシュマニア症治療薬の探索研究について
概 要
リーシュマニア症は熱帯地方特有の感染症で、WHO 指定の六大熱帯病の一つであり、原虫の種類によって内臓型、皮膚型、粘膜皮膚型の病態を呈する。アフリカ、中近東、中南米、アジアの総患者数およそ1200万人、毎年40万人が新たに感染すると推定されている。現在アンチモン剤(薬剤名:ペントスタム、グルカンタイム)やアンフォテリシンB、ペンタミジンが治療薬として用いられているが効果が弱く、重篤な副作用を呈することもあるため、新たな安価で副作用の少ない薬剤が求められている。南米ペルーでは、アンデス山中で主に顔に潰瘍が発生する皮膚型(現地名:ウタ)が流行しており社会問題となっている。また、近年パキスタンでも本感染症の流行の兆しがある。この感染症に対する薬剤は高価でありかつ長期間の投与の必要性があり通院治療が必要なことから、医療過疎で経済性の低い現地の人々は治療を受けられずに大きな問題となっている。例としてあげた両国など同感染症の流行国から、現地の身近な植物からこの感染症に対して有効な薬剤を見つけて欲しいとの強い要望を受けたことから本研究が開始された。原虫に対する植物成分の活性は、マラリアの特効薬であるキニーネやアルテミシニンに見られるように衆知である。ペルーの現地医師との会談において、南米では薬剤不足や僻地での通院治療の困難さ等の問題点が指摘されており、本研究では綿密な現地での聞き取り調査を基に、現地の植物研究者を交えて感染症に有効な薬用植物を見いだし、それらのリード化合物を基にし、未だに不明な点が多い発症のメカニズム解明や、生体機能の防御力との関連性を解明することにより発病阻止の方策を探っている。現在までの成果
現在までに、南米のペルー、ボリビア、アジアではミャンマー、ネパール、パキスタンなどの国々の生薬を600種類以上をin vitroにおけるスクリーニングにかけ、特に抗リーシュマニア活性の強かった生薬類について、活性成分の検索を行った。ペルー産薬用植物からは Lingua de vaca (Elephantopus mollis H。B。K。) から7種類のセスキテルペノイドを単離し、それらのLeishmania majorに対するIC50値は0。1μg/ml以下と高い活性を示した。また、それらをリード化合物とした誘導体を数種類合成し、活性を検討し多くの有用な知見が得られた。マウスを用いた血中濃度のモニタリングや小核試験なども行い、その結果植物エキス製剤としての利用の可能性が考えられるに至った(国内特許取得済み)。 Yanali (Bocconia paercei Hutch。) からは強い活性を有するベンズフェナンスリジン型アルカロイドを単離した。そのうちチェレリスリンはIC50値0。001μg/ml以下と極めて強い活性を示した(特許出願済み)。またエキスの病態動物への投与を試みた。 Batata de Purga (Ipomoea operculina (Gomes) Mart。) にも強い活性を認め、活性化合物の構造を検討した結果、活性本体は分子量 7000 を越える高分子化合物であると推定された。このような高分子化合物で活性を確認したのは初めての例であり薬効メカニズムに興味が持たれる。ミャンマー産薬用植物としてSemecarpus anacardium L。(下写真)から長鎖を有するフェノール性化合物、Milettia pendula Benth。からプテロカルパン型化合物を活性成分として単離し、またミャンマーにおいては基幹産業となっている木材に関して、その抽出成分の有効性も検討した。その結果、多くのミャンマー材抽出物の有効性を発見しいずれも特許を出願した。ミャンマー産木材は、主に建築用材などとして利用されているが、薬用としての利用法を開拓して行く。海外の共同研究者は、主に植物採取の諸手続きを行い国内研究者の試料採取の案内を担っている。国外植物を試料として用いる場合、種の同定が重要だが現地の専門家の協力とニューヨーク州立植物園、英国キュー植物園の調査などにより正確な同定が行われている。左:ミャンマー生薬Semecarpus anacardium(ウルシ科) 現地名はChyi Thee 現地では、感染症、乾癬、痔疾、消化不良などに服用している。 |
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右:Perezia pinnatifida Wedd.(キク科) 現地名はValeriana | |
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